「ほら、ほら。使ってください」慣れた手つきで渡された茶封筒には、100万円が入っていた。
5年前、2019年の参院選で最激戦区の一つとなった宮城選挙区(宮城県)。選挙戦3日目の7月6日、予想外の出来事が起きた。
密室ともいえる車内。自民党推薦の愛知二郎候補(54)の後援会幹部が、応援演説に来た同党の大物政治家を出迎えていた。愛知候補自身は別ルートで遊説中だった。「どうぞ、これを使ってください」と丁寧な口調で声を掛けた。
彼は慣れた手つきでクリアファイルを私に手渡した。中にはA4サイズの茶封筒が入っていた。「選挙資料か何かかな」と思いながら受け取った。
事務所に戻って封筒を開けると、1万円札が100枚入っていた。封筒に束ねられて封がされていた。「どうすればいいんだ?」初めての経験に驚き、戸惑った。候補者に迷惑をかけるかもしれないと思った。すぐに返そうと思ったが、その政治家はすでに帰った後だった。
問題の大物政治家は、自民党の選挙対策委員長を務めた甘利明氏(74)だ。経済産業相や政調会長を務め、衆院議員を13期務めたベテラン。首相・自民党総裁の安倍晋三氏(2022年に死去)を支える4人の党首の一人として、党の選挙を仕切っていた。選挙の行方は、自身の責任にも直結する。
現金100万円の入った封筒に後援会幹部は驚いたが、政党から候補者への資金提供は政治資金収支報告書に記載すれば法律で認められている。「選挙対策委員長や幹事長くらいの人間が手ぶらで来るはずがない」と参院議員を3期務めた愛知氏は甘利氏の意図を推測する。後援会幹部から報告を受けた愛知氏は、事務所に100万円を収支報告書に記載するよう指示したという。
「前回の参院選では、応援に来た党幹部から現金の入った封筒をもらった」と明かした愛知氏は、封筒は選挙カーで2人きりになった時に渡されたといい、「わざわざ現金で渡してくれたのだから意味がある。応援しているという印象を与える」と指摘。こうした金銭関係を「自民党の悪しき慣習」と批判する。
しかし、甘利氏の主要政治団体や100万円を提供した自民党の収支報告書には100万円の記載はない。どこからお金が出てきたのか。愛知氏に聞くと「分からない」と答え、表情が一気に暗くなった。
faカレンダー5月28日(火)11:02
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